如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

養老先生からの悩める中年世代へのメッセージ

 

歳を取るのも悪くない

2018年6月9日

 まず本書は「対談」ではなく「インタビュー」であることを知っておいた方がいい。

 元アナウンサーで40代の小島慶子氏が、元東大医学部教授で80歳を迎えた養老孟司氏に、人生の様々な問
題、疑問などについて質問、それに対して先生が自分の人生観に沿って答えるという文章が大半を占めている
ためだ。

 まあ本人が熱病のように「養老先生に会いたい」と周囲に話していたようなので、いわば熱烈なファンから
のインタビュー要請に先生が応じた、というのが実態かもしれない。

 小島氏の意見や見解も随所に見られるが、どちらかというと体験談に近く、本書のタイトル「歳を取るのも
悪くない」には、あまり関係ない内容が多いと感じた。「不安障害」を抱えながらの海外暮らしの子育てで、
大変な苦労をされたということは伝わってくるが。

 さて、肝心の養老先生のメッセージだが、その範囲は、学生時代、大学の教官時代、定年前に辞める時の経
緯に始まり、職業の在り方、人付き合い、結婚観、教育など様々なテーマに渡るが、一貫しているのは「変化
を恐れることはない。普段から自分で物事を考える習慣を身に着けるべき」ということだろうか。
 
 東大医学部教授という世間から見れば「教育職の最高峰」とも言える地位を定年の3年前にあっさりと退官、
その理由が「権威主義に疲れたから」。ちなみに50代後半はストレスから毎日酒浸りだったそうだ。しかも辞
めたあとのことは何も考えていなかったらしい。

 まさに「変化を恐れない」を具現化した行動だが、これも「医師」という手に職があってこそできることで、
仕事一筋でやってきた普通の中年会社人間には難しいだろう。

 ちなみに今話題の「オジサンの孤独」についても触れていて、孤独を感じるのは「自分があって組織に属し
ているのではなく、組織があって自分が属しているため」としている。

 確かに現時点の多くの定年後のサラリーマンは、「社畜」とまでは行かないまでも、「家庭よりも仕事優先」
という考え方が支配的だった時代の常識に疑問を持たずに過ごしてきた世代であり、いきなり会社組織から放
り出されても、「何をどうすればよいのか全く見当が付かない」という人が多いのだろう。

 「いい年をして何をいまさら」とも思うのだが、これが少なくない定年退職者の実態のようだ。
 
 この問題に対して、先生は「年を取るほど仲間を作っておいた方がいい」「人に依存しあう関係も意外にい
い」とアドバイスしている。ただ一方で「依存しすぎるのも問題で、状況に応じて自分が変わることも必要」と
も述べている。
 
 個人的には、このように「人に依存しつつもその距離感をうまく維持する」のというのは、それだけで疲れ
てしまうので、できれば「基本一人」で何事も対応できることを目標にしている。

 自分で決めて行動したことには、その結果に対して自分で責任を取る必要が生じるので、ある種の緊張感が
保てると考えているからだ。これは将来の認知症やボケ対策にも有効だと思っている。

 最後に、先生は小島氏を若いころから知っているようで、「会う都度に大人になっていくのが分かる」とし
ている。本書もその文面から彼女との会話を結構楽しんでいるのは感じ取れた。

 教養と名声の高い先生を師と仰ぎ、先生も彼女からの多岐に渡る質問に対して、ユーモアを交えながら真剣
に対応する。こんなある意味理想的な関係と言える「先生」がいたら、私の人生も「もう少しマシなもの」に
なっていたのではないか、とふと想った。