如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

意外に面白い「統計思考」、例題が実践的で役に立つ

 

できる人は統計思考で判断する

2018年8月6日

 日本生命系列の研究所でアクチュアリー(保険数理の専門職)である著者が、「統計」という概念を分かり
やすく解説する本である。

 個人的に「統計」という分野に関心はあったのだが、見かける書籍には「何たら統計学」などのタイトルが
多く、読むのを躊躇していたが、「統計思考」という書名と「その行列に何分待ちますか?」というキャッチ
コピーに惹かれて読んでみた。

 一言で言えば、統計という言葉から思い浮かべる「数式」「計算式」の類の記述はほとんどなく、ほとんど
の解説を「文章」で行っている点が大きな特徴で、読みやすい。

 具体的には、先の「行列待ち」のほか、「腕時計の製造数を製造番号から推測する」、「30人のクラスで誕
生日が同じ生徒がいる確率は70%以上」、「成績は上位と下位の基準を変えることで誤魔化せる」など、例題
が身近な存在のものが多く、途中で投げ出すことなく最後まで読めた。

 生命保険会社の研究機関で調査をしているだけに、薬や患者など医療業界に関連した内容がやや多い傾向は
あるが、医薬品の臨床試験で、本物の「候補藥」と偽物の「対象薬(プラセボ)」を投与するにあたって、患
者に真偽を分からせないようにする第一のマスク、薬を投与する医師にもわからないようにする第二のマスク
のほか、その結果を評価する人にも、さらにはそのデータを分析する人、と四重のマスクが必要というのも興
味深かった。

 著者はさらにフィクションとして話を続け、その分析結果の報告を受ける上司の先入観を排除するためのマ
スク、またその上司が役員に報告する際に役員が持つ先入観を排除するためのマスクの必要性にも言及、最終
的には「公正であろうとする人が本来持っているはずの誠実さ」に頼るしかないとし、機械的な仕組みによる
公正性の確立の「限界」を指摘している。

 本書を通じて 著者が最も伝えたいのは「何事についても、得られた情報をただ単純に信じるのではなく、
批判的に見る姿勢が『本質を見抜く力』を強化するための第一歩となる」ということだろう。

 おそらく著者は、普段から保険数理という「数字」に囲まれた仕事をしているだけに、その表面からは読み
取れない裏側にある真実を常に意識するという姿勢を取っているのだろうが、このことは「統計思考」に限ら
ず、すべての分野において重要だと改めて思った。