如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

解説は詳しい、ただし「事実」と「意見」は区別が必要

 

社会保障入門

2018年9月17日

 タイトルは「社会保障入門」だが、新書としては総ページ数350と文章量は多く、その範囲も「年金」に始
まり「医療」「介護」「労災」「障害者福祉」と多岐に渡る。

 それぞれの項目がその成り立ちから仕組み、問題点まで詳細に説明されており、「入門」というよりは、
これ一冊でほぼ社会保障の全容が判る「詳説」に近いと思う。

 その意味では、社会保障に関連する入門書を何冊も読むよりは効率はいい。ただし、文体は大学教授の執筆
のためかやや硬いので、一気に読むのはしんどい。

 ただ個人的に感じたのは、現在の社会保障制度の問題点は「すべて安倍内閣に起因する」という論調が、最
初から最後まで続くのは辟易した。

 まず序章で、「社会保障制度の国民負担が増加(政府負担は減少)する一方で、防衛費を増額させてきた」と
主張しているが、それぞれに金額の増減があったにせよ、この二つに直接の関連性はないはずだ。

 見方を変えれば国民を、社会保障という制度で守る代わりに、防衛力の強化で海外からの攻撃から守ってい
る、とも言えるだろう。

 しかも事実誤認もある。イージス・アショアを陸上配備型迎撃ミサイルと書いておきながら、その直後に
「北朝鮮のミサイル基地を射程に収めた攻撃力を保有することを意味する」と解説、日本に飛来するミサイル
を打ち落とす迎撃が、どうして他国基地への攻撃力になるのか、まったくもって意味不明である。

 旧社会保険庁に関する記述にも異論がある。日本年金機構への移行に伴い「年金実務に習熟した職員の大量
解雇等が進められた」とある。

 人員が削減されたのは本当だが、当時の社会保険庁の勤務実態について「パソコンを45分操作したら15分休
憩」などの非常識な労使協定が明らかになったほか、いわゆる有名人の年金未納問題で、職員が個人の納付状
況を外部に漏洩していたことについてはどう考えるのか。

 「仕事はしない、違法行為はする」などの職員の存在が、国民の怒りを招き、社会保険庁解体の一因になっ
たことに全く触れないのは偏見だろう。著者の言うところの「習熟した職員」なら、仕事のサボタージュも法
律違反も問題ではなく「クビにするのはおかしい」という、奇妙きてれつな理屈になるのだが。
 まあ左寄りの学者や識者が「何でも彼んでも政府に責任を押し付けて思考回路停止状態」になるのは珍しい
ことではないが。

 本書を読むにあたっては、記載されていることが「正確な事実」なのか、または「著者の意見」なのかを明
確に判別して読む必要があると感じた。