如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

原発が住居と隣り合わせで存在している理由が分かる本

 

原発都市 歪められた都市開発の未来

2018年10月6日

 著者は、茨城大学教授で都市工学を専門としている。茨城と言えば、原子力に関する知識が乏しい私でも「
東海村」の名前が挙がるが、本書はその東海村が何故「原子力村」と呼ばれるようになったか、またどうして
原子力発電所と住民が隣り合わせで共存しているのかを解説している。

 結論を簡単に言えば、政府の原発の設置決定から茨城県が原子力施設の整備基本計画を出すまでに年月が掛
かり過ぎたため、その間に原発周辺に住宅供給が進行してしまった、ということになるのだが、1956年の決定
から現在に至る経緯は、第二章と第三章に詳しく書かれているので読んで頂きたい。

 著者は、原発については明確に「廃炉」を主張している。ただ、いわゆる政治家や評論家が口先だけの廃炉
をお題目ようにただ唱えるのではなく、「廃炉ビジネス」で先行するドイツの事例を紹介したり、原子力のエ
ネルギー利用から医療・医学などでの放射線利用への転換などを提案している。

 ただ、国内の大半の原発が稼働中止している現状では、原発の「負の遺産」をどう考え、取り扱うかが喫緊
の課題だろう。

 原子力委員会の報告によれば、負の遺産の第一位は「農業の衰退」で、第二位は「廃炉により発生する余剰
労働力」、第三位が「交付金で建設された公共施設の維持管理」だそうだが、著者の指摘する負の遺産は、
「原発と住宅地の危険な混在」が第一位で、第二位が「商放射性廃棄物の処理・貯蔵」となる。

 この違いは、負のコストを「経済性」の視点から見るか、「危険度」から見るかの違いであって、どちらが
正しいというものではないとは思うが、突き詰めれば前者は「おカネ」で解決できるが、後者は「法的、物理
的」に解決は難しいだろう。原発の周囲に大規模に広がる住宅地を全住民の同意を得て、希望する安全な転居
先に移転させるのは無理を通り越している。

 廃棄物の処理、貯蔵もリスクをゼロにする技術が確立されていないのだから、そもそも根本的な解決は不可能
だ。

 原発は、新設は言うに及ばず既存の施設を稼働させるのも、廃炉するのも問題が山積している。

世論はどちらかと言えば再稼働に反対、廃炉も止むを得ずとの考えに傾いているようにも見えるが、政府は原
発を再稼働し全エネルギーの20%程度を確保する意向という。日立が英国で原発を手掛けようという現状で、
国内の原発を危険だから止めるという選択肢は政府にはないだろう。

 ただし、これまで政府や原発関係者は言ってきた「原発は安全性に問題はない」という言葉が、福島の事故
を受けて今後通用しないことは明らかだ。その上で原発を稼働し続けるなら「完全に安全とは言えないが、可
能な限りの対策を施し、万が一の事故にどう対応するのか明示する」ことで国民に納得してもらうしかないと
思う。
 
 浅学ながら個人的な意見を言えば、どうやっても危険をゼロにできない現在の原発にさらなる費用をかける
くらいなら、高レベル放射性廃棄物を出さないとされる「核融合炉」の実用化に向けて研究開発費をつぎ込ん
だ方が、長い目で見て有望ではないかと思うのだが。