如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

投資の否定」から「損をしない」へと視点が変わった。パイオニア株の推奨は不可解

 

払ってはいけない 資産を減らす50の悪習慣

2018年10月18日

 経済ジャーナリスト荻原博子氏の最新刊である。もっとも個人の投資や貯蓄に関する著作が多いので、私は
「庶民派の投資評論家」の肩書の方が合っていると思うのだが。

 似たような立場として「経済アナリスト」を自称する森永卓郎氏が、10月に「ビンボーでも楽しい定年後
(中公新書ラクレ)」を出版している。こちらもテーマは「おカネ」だが、森永氏がやや「男性」「趣味」とい
う立場であるのに対して、荻原氏は基本的に「主婦」「損得」という視点であることが相違点だと感じている。

 まあどちらも「庶民の」目線からの、「身近な」おカネの話という点では同じなのだが。ちなみに表紙の帯
に顔写真を出しているのも共通している。

 荻原氏が8月に出た前作「投資バカ」(宝島社新書)では、具体的な投資不適格商品を取り上げて糾弾、
「デフレ下では現金を積み上げるのが最善」とのアドバイスだったが、本書も基本的なスタンスは変わりな
い。まあ二ヶ月しか経っていないので当然ではあるのだが、内容も被る点が少なくないのは残念ではある。

 ただ、資産運用、節約テクニックとなると巷にこの手の本や雑誌は溢れているので、差別化が難しいのが実
態だ。

 この状況は当然ながら著者も承知していて、「はじめに」で他のマネー本と違う点を強調している。具体的
には、「どうすれば儲かるかではなく、損をしないか」「お金のことは人間関係を含めた家族のこと」「難し
い経済・金融用語は使わない」の3点だ。
 
 確かに、プラスを追求する「儲かる」と、マイナスを回避する「損をしない」では、最終的な目的は似てい
るが手段がまったく異なるのは事実。これは著者なりの見識であり特に異論はないのだが、私には荻原氏の
「儲かる」投資本を読んだ記憶がない。

 つまり著者は常に「損をしない」テクニック本のプロなのだろう。この意味で、すでに著者の本を読んだこ
とのある人には、本書は既読感が拭えない。また「難しい用語を使わない」のも、これまでの著作に一貫する
特徴である。

 という訳で、個人的には2番目の「家族」という視点からの内容が参考になった。具体的には「夫婦で家計
の現状を把握し、将来を話し合う」「子供に財産を残さない」などだ。老後の資金の使い道について「子供た
ちにただ贈与したり遺産として残したりでは、お金の有難みが伝わらない。家族旅行に使って思い出として残
した方が良い」というのは説得力のある指摘で、是非将来実践しようと思った。

 最後に本書の内容で、気になった点をいくつか指摘しておきたい。

 178ページに「無料のセミナーでカモにならない」として、金融機関の開催する投資セミナーに参加するこ
とに否定的だが、最近の証券会社の説明会では、上場企業のIR責任者を招いて会社説明、質疑応答を設けてい
るケースも多い。投資先の企業のナマの声が聴けるのは参考になる。

 住所などの連絡先は書かされるが、コンプラの問題もあって執拗なセールスは鳴りを潜めているとも聞く。
過度に警戒する必要はないかもしれない。

 お薦めは、投資信託協会の「投信フォーラム」や東京証券取引所の開催する各種セミナーだ。こちらは基本
的に住所や電話番号を書かされることもないし、一回のセミナーで複数会社の投資商品に一度に話が聞けたり、
資料がもらえるので効率がいい。余録だが「お土産」のパフォーマンスも総じて悪くない。

 また、「これはさすがにマズイ」と思ったのが、179ページ「投資力を身につけるのに一番いいのは株をひ
とつ買ってみること」。ここで具体的に取り上げている銘柄のひとつに「パイオニア(6773)」がある。

 この会社直近二期は最終赤字で、今期はついに「事業継続リスクの注意喚起」を決算短信に載せるところま
で追い詰められているという、先行きがかなり不透明な会社である(資本強化は進捗しているが)。株価は
100円台なので確かに1万円台で買えるが、どう考えても株式投資が初めての初心者に勧める銘柄ではないだろ
う。
 仮に一発逆転の大化けを狙うという考えであれば、そもそも著者の「無用なリスクを取らない」というポリ
シーと矛盾する。

 以上、いくつか気になる内容はあったが、「おカネで損をしたくない」「荻原氏の著作を読んだことがない」
という投資初心者には、参考になる内容が多い本だと思う、と今回も一応推奨しておく。

【追記】
 12月7日、パイオニアは「アジア系投資ファンド、ベアリング・プライベート・エクイティ・アジアの傘下
に入り、上場を廃止する」と発表した。既存株主からも約250億円で株式を買い取るが、買い取り額は1株あた
り66.1円と7日終値(88円)よりも25%安い。

 本書が出版されたころには100円ちょっとだったので、同株に投資した個人は大損だろう。

 株式投資が自己責任であることは言うまでもないが、著作で具体的な銘柄をアドバイスする方にも一定の見
識が求められると思うのだが。少なくともパイオニア株を推奨したことについては、何らかの見解を出すべき
だと思う。