如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

発達障害は「病気」ではなく「個性」として対処を

 

発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち

本田 秀夫

2018年12月20日

 20年以上発達障害の臨床と研究に取り組んでいる精神科医の解説する発達障害の解説本である。

 本書の特徴は、「(事例として)紹介された特性は自分にも当てはまるけれど、生活には困っていないし、
『自分を発達障害だとは思わない』という人にも読んでほしい」(p216)という視点にある。

 自分や周囲から見て明確な症状がある人ではなく、その可能性がある人に発達障害の現実を知ってもらうこ
とを狙いとしている。

 著者によれば、発達障害の基本的な特性は、「自閉スペクトラム症(AS)」「注意欠如・多動症(ADH)」
「学習障害(LD)」の3種類があり、症状はこのうちのひとつではなく、重複することがあるのだが、この重
複を理解している研究者が少ないため、対応が難しくなっているという。

 また、重複する障害の特性には強弱があり、常に「1+1」ではなく「0.5+0.5」になる例もある(p66)とい
う指摘は、周囲も含めた発達障害への理解を難しくしているという現実を、うまく説明していると感じた。言
い換えれば「ココロの合併症には専門医が少ない」ということだろう。

 具体的な内容で参考になったのは、第2章「発達障害と『ふつう』はどう違うのか?」。

 この章では、「オタク」とASの間には明確な境界線はないが、「ASの特性がある人には、基本的に『対人
関係』よりも『こだわり』を優先する傾向がある」(p92)との解説のほか、「うっかり屋」とADHには、
「活動への興味を自分である程度コントロールできるかどうか」(p106)という違いがあること、また、LD
と「勉強が苦手」の違いについても言及している。

 第3章では、「本当の自分を知る方法」として、発達の特性を知るための11のチェックリストが記載され
ている。

 これは、その前段で紹介されているASとADHの強弱と重複のイメージ図(p122)と合わせて、発達障害の
レベルを認識するには参考にあるだろう。

 ただ著者がイメージ図については「特性は単純に0から10までの段階で示せるようなものではない」として
いるように、「ひとつのヒント」(p129)として利用するべきだとは思うが。

 第4章では、特性がわかったら、それに合わせて生活環境を整える「環境調整」が大事だとし、具体的には
自分の「やりたいこと」を生活の中心にすることをアドバイスしている。

 この根拠になっているのは「人間はやりたいことをやらなければ納得できない」という精神科医としての立場
がある。

 ここで重要なのは、「やりやいこと」があったとして、普通の人は「やるべきこと」「身の周りのこと」「
睡眠」の合わせて4つをうまく時間的に調整できるが、発達障害の人は「やりたいこと」への情熱が抑えられ
ず、睡眠などの時間を削ってストレスを溜めてしまう傾向があることだ。

 個人的に本書でなるほどと感じたのは、発達障害のことを「~ができない」病気と考えるのではなく、「
~よりも~をする」という選好性として考えてもよい、という指摘。

 周囲に馴染めない異端者としてではなく、独特の志向性を持つ個性派として認識するというのは、発達障害
者によっても、取り巻く関係者にとっても有意義な視点だと思う。