如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

マンションの買い手に問う。「将来のリスクを背負う覚悟はあるか」

 

負動産時代 マイナス価格となる家と土地

朝日新聞取材班

2019年2月23日

 都心ではタワー型を中心に分譲マンションに根強い需要があるが、本書はマンション

購入、賃貸アパート経営などで将来抱えることになる多大な不動産のリスクに警鐘を鳴

らしている。

 前書きにあるが、マンションを買えば支払うのは住宅ローンだけではない。管理費、

修繕積立金のほか、固定資産税、都市計画税もある。また、かなりの確率で二回目以降

の大規模修繕の一時金も徴収される可能性が高い。


 最近ではローンの超低金利に加え、共働きが増えたことで購入可能な物件価格が上

昇、夫婦の共同名義で購入する向きが多いようだが、3組に1組が離婚するとも言われ

る現状で、35年のローンを支払う自信と根拠がどこから来るのか理解に苦しむ。

 

 しかも、35年後の古びたマンションにどれほどの価値があるのだろうか。現在築35年

のマンションを見てほしい。設備、構造など今の新築物件とは比較にならないはずだ。

 ごく一部の利便性の高い物件は中古でもニーズはあるだろうが、大多数のマンション

は供給過剰でまともな値が付くとは思えない。「では建て替えを」となっても今度は全

世帯の同意を取り付けて解体、再建築するのは、高齢者を中心に個々の事情もあり極め

て困難だろう。


 まさに本書にあるように所有者が「身動きが取れない」窮地に陥るのは明らかなの

だ。

 こうなると老朽化の進んだマンションは危険だから「自治体が税金で解体などへの対

応すべき」という話になりがちなのだが、ちょっと待って欲しい。多数の住民が住んで

いるとはいえマンションは私有財産である。個人が所有する資産の処分に税金を使って

いいのかは大いに議論の余地があるだろう。


 集合住宅だから公共性があるというなら、アパートも対象になるのか、であれば二世

帯住宅はどうなのか、それなら戸建ても考慮されるべきでは、という論理展開になるの

が自然だろう。こうなると、もはや税金で「住居」を解体・処分というのは事実上不可

能な話となる。確かに戸建てについては空き家対策法が存在するが、これはあくまで解

体費用を一時的に自治体が「肩代わり」するもので、費用の請求は不動産の所有者に行

われる。
 
 とはいえ、治安や景観に悪影響を及ぼす廃墟マンションを放置するのも問題なのは事

実だ。解決策のひとつの例が、第五章にある「不動産を捨てられる国ドイツ」にある。

ドイツでは民法で「放棄の意思を表示すれば(不動産を)放棄できる」とあるそうだ。


 日本でも不動産を手放したい人の5割が費用を払ってもよいという調査結果(図表

6-1)があり、解体・整備費用の負担を条件に権利放棄を認める制度をいままで以上に

拡充する必要はあるだろう。

 

 私は宅建士の資格も持っているので、個人的に分譲マンションのアドバイスを求めら

れることも結構あるのだが、若い現役世代には新築・中古を問わずマンション購入を勧

めない。代わりに手ごろな賃貸物件に住んで貯蓄に努め、引退後に家族構成などのライ

フスタイルに合わせた住宅(戸建ても含む)の現金一括購入を推奨している。

 人生の最後まで「賃貸」でも別に構わないのだが、今後減額が確実視される年金を原

資に賃貸料を支払い続けるのは、さすがに厳しいのではないだろうか。

 

 人口・世帯数の減少する一方で、新規住宅建設は伸び率が鈍ることはあってもゼロに

はならない。しかも先述したように老朽化物件の解体も進まないので総住宅戸数は増え

るのは確実。要するに「需要」が減って「供給」が増えるのだから、どう考えても「価

格」は下がるとしか想定できない。言うまでもないが収益重視のいわゆる一丁目一番地

の投資物件は別の話である。


 具体的には、いまから数十年先には相当数の住宅を選り取り好みで、中古なら数百万

円程度で買える可能性が高いだろう。すでに都下でもバス便なら1000万円以下の中古物

件は珍しくないのが現状だ。


 仮に70歳で引退して(多分その頃は定年が70歳にはなっているはず)年金生活に入っ

て、築15年の物件を購入しても90歳(築35年)になるまでは建て替えの不安はないだろ

う。

 

 では、なぜこのオススメの「引退後の現金一括購入」を、不動産の業界関係者が誰も

話題にしないのかという疑問を持たれる方も多いと思う。


 その答えは「誰も儲からないから」だ。基本的に新規分譲マンションや中古物件を手

掛ける業者は、「すぐにでも契約して建設コストを回収もしくは売買手数料を確保」し

たいので、数十年も先の話などまったく眼中にないのである。

 この話が信じられないのであれば、新築マンションのモデルルームに行って、一通り

説明を聞いた後で「実は購入するのは2,3年先の話なんです」とでも話を振ってみれ

ばいい。まず間違いなく担当者の顔色が変わって、早々に話を切り上げようとするはず

だ。目先の利益につながらない相手は客どころか、迷惑な存在以外の何者でもないので

ある。

 

 私は、不動産関連の仕事をしている訳でもないし、業者から一銭も受け取っていない

ので、思っていることを何のしがらみも制約もなしに正直に書いている。不動産で稼い

でいないという意味では「プロ」ではないが、「プロ」が書きにくいことも正直に言え

るという立場にあるのは事実だ。

 

 今の時代、夫婦共稼ぎの収入、借り入れ金利の上昇、地震などの自然災害、病気・ケ

ガ、転勤、子供の進学、親の介護など将来何が起きるかわからないうえに不動産価格の

中長期的な下落は確実。住宅ローンという長期かつ多額の負債を自ら抱え込む必要はな

いと思うのだが。

 

 まあ最終的には個人の価値観の問題なので、これ以上はとやかく言いませんが。